BITTERSWEET 30 BLUES

数年前、「三十路記念」としてプラチナとダイヤのリングを買った。
自分で自分のために。
なんの記念なんだか、という感じではあるが。
 
本当はフルエタニティが欲しかったけど、
それはいつか来る日までおあずけだ、第一、まだ半人前の私にはちょうどいいや。
 
なんてよくわからない、もっともらしく聞こえる理由をつけてハーフエタニティを選んだ。
 
 
ピンキーリングも着けているがこっちは完全におまじない感覚。
幸せを招くとか、幸せを逃がさないとかいうやつ。
そこまで信じこんでいるわけでもなく、単にかわいくて気に入ったからなんだけど。
 
余談ではあるけど、このピンキーリングがちょっと曲者で、
私の身に何かが起こると本当にマジックみたいにスルリと抜けて失くなってしまうのだ。
 
これまで何度失くしては買い直しただろう。
サイズが合ってない説もあるけど、何かのシグナルなのだろうか。
嘘みたいな本当の話。
つい数ヶ月前だって買い直したばかりだ。安物だけど、そういう問題じゃない。はあ。
 
 
 
さっきも書いた「ピンキーリングが幸せを招く」とか何とか言うのは、
うら若き10代の頃に知った。
 
泣く子も黙る、時代と寝た女こと安室奈美恵の影響だった。
今さら説明する必要もなく、みーんながこぞってこぞりまくって真似してた、
シルバーのリング。
小指にリングだなんて、オトナ!と思ってた。
 
最高にクールでカッコイイ彼女の、切なく甘く誰にも言えなかった
当時の心境を初めて吐露したとも言えるあの名曲、SWEET 19 BLUES はこう紡ぐ。
 
 
“もうすぐ大人ぶらずに子供の武器も使える いちばん旬なとき”
 
19歳が旬だとするならば、今の私は…!?
というのはまあ、ちょっと一旦CM入るぐらい横に置いといて。
 
“さみしさは昔よりも真実味おびてきたね でも明日はくる”
 
今になって観返せば多少の幼さはあるものの、当時19歳にしては随分とアダルトすぎるオーラをまとった彼女が、あふれる涙を真っ直ぐな瞳いっぱいにためて歌いあげる華奢な身体と、長い髪をかきあげる細い指にごつめのリング。
それをテレビの前で見つめる私の姿が鮮明に頭に浮かぶ。
 
“だけど私もほんとは さみしがりやで”
 
この曲を初めて聴いた1996年の原石だった頃よりも19歳ど真ん中のあの頃よりも、30歳を超えた今のほうが私の心を掴んで離さない。いまだに。
これから先もそうなのだろうか。
 
ガラスの10代を経て、気がつけば30代となった私はダイヤになれたのだろうか。
 
 
たたみかけるように続く。
 
“誰も見たことのない顔 誰かに見せるかもしれない”
 
 
記念に手に入れたあの日から毎日私の指に輝く三十路リング。
光を受けてキラリと眩くきらめいてはいるが、小さなダイヤはやっぱり1/2周のまま。ハーフエタニティ。
 
このハーフエタニティリングを飾るであろう残り半分は、どこかにいるはずの
“誰も見たことのない顔を見せられる誰か”が持っているのだろうか?